今回は社会人におすすめの資格「日商簿記3級」(以下「簿記3級」)についてご紹介します。
簿記3級を勉強するメリットは3つ。
複式簿記で記帳する方法が学べる
確定申告(青色申告)で65万円の控除を受けるのに役立つ
簿記3級を勉強して良かったこと
損益計算書、貸借対照表とは何かが分かる
「貸借対照表」「損益計算書」は、決算の際に作られる財務諸表。
財務諸表によって、会社の財政状態や経営状況を把握できます。
経営者なら経営方針を立てるのに、労働者なら会社の将来性を判断するのに役立ちます。
貸借対照表は、ある時点での会社の財政状態を示す計算書。
これによって決算時に、会社にどれだけの資産や負債があるのかが分かります。
英語では「Balance Sheet」と言い、略して 「ビーエス(B/S)」とも呼ばれます。
損益計算書は、一定期間における会社の経営成績をあらわす計算書。
これによって1年間で会社がどれだけ利益を上げたのか、どれだけ損失をだしたのかが分かります。
英語では「Profit and loss statement」と言い、略して「ピーエル(P/L)」とも呼ばれます。
ただし3級で学べるのは、あくまで基礎的なことだけ。
実務で作成される「貸借対照表」「損益計算書」を理解したい場合は、2級や1級を勉強する必要があります。
複式簿記で記帳する方法が学べる
簿記には「単式簿記」と「複式簿記」があり、この2つは記帳方法が違います。
家計簿などで使われる
一般的に会社で使われる
複式簿記のメリットは、お金の動きを正確に記録できること。
お金の動きが分かると、財政上の問題点を把握できます。
また会計上のミスや不正を見つけやすくなります。
単式簿記にくらべ手間がかかりますが、事業を行っていくには不可欠なものです。
確定申告(青色申告)で65万円の控除を受けるのに役立つ
確定申告において「青色申告制度」を利用する場合、一定の条件を満たせば、最大65万円の控除が受けられます。
控除を受けられる具体的な条件は以下の通り。
65万円の青色申告特別控除
(1) 不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営んでいること。
(2) これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること。
(3) (2)の記帳に基づいて作成した貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、法定申告期限内に提出すること。
出典:国税庁 No.2072 青色申告特別控除https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
つまり簿記3級は
(2)の「取引を複式簿記により記帳」 (3)の「貸借対照表&損益計算書を申告書に添付」 |
といった条件を満たすのに役立ちます。
事業を営んでいる方、不動産の貸付を事業規模で行っている方は、簿記3級の勉強をすると良いでしょう。
簿記3級で学べること
複式簿記の記帳方法
商売をしていると取引が発生します。
例えば「7月1日に10,000円の商品を販売して、代金を現金で受け取った」とします。
この取引を単式簿記では以下のように記帳します。
このように取引を一つの科目(主に現金)に絞って記録します。
シンプルで記帳も簡単ですが、収入と支出しか記録されていないため、商品がどのくらい残っているのかといったことを把握するのが難しいです。
また掛け(代金の後払い)・小切手・手形など、現金以外の方法で取引を行った場合も把握が大変です。
複式簿記では以下のように記帳します。
このように取引を複数の科目に分け、それぞれの科目の増減を記録することを「仕訳」といい、簿記において最も大切な作業となります。
複式簿記では、左側を借方(かりかた)、右側を貸方(かしかた)といいます。
また「現金」「商品」といった項目を「勘定科目」といいます。
「勘定科目」は、以下の6つのグループのどれかに当てはまります。
『資産』
『負債』
『純資産』
『収益』
『費用』
『利益』
複式簿記の記帳にはルールがあり、それぞれのグループは書く場所が決まっています。
借方(かりかた) | 貸方(かしかた) | |
資産 | 増加 | 減少 |
負債 | 減少 | 増加 |
純資産 | 減少 | 増加 |
収益 | ー | 発生 |
費用 | 発生 | ー |
利益 | 発生(利益) | 発生(損失) |
「現金」「商品」といった勘定科目は『資産』のグループになります。
つまり「現金」「商品」が増加した場合は借方(左側)、減少した場合は貸方(右側)に書きます。
先ほど例に挙げた取引で考えると
「7月1日に1万円の商品を販売して、代金を現金で受け取った」
というのは、言い換えれば
「7月1日に現金という『資産』が10,000円増え、商品という『資産』が10,000円減った」
となります。
『資産』は、増加は借方(左側)に、減少は貸方(右側)に書きますから、以下のような仕訳になるのです。
仕訳をした後は、それぞれ「勘定」に転記します。
「勘定」とは、勘定科目専用のT字型の表のこと。
この仕訳を、「現金勘定」「商品勘定」に転記すると以下のようになります。
ここでも『資産』が増加した場合は借方(左側)に、減少した場合は貸方(右側)に書くというルールが適用されます。
現金という『資産』は増加したので「現金勘定」の借方(左側)に、商品という『資産』は減少したので「商品勘定」の貸方(右側)に記されます。
「勘定」に転記することで、勘定科目が、いつ、どれくらい増減したか一目で分かります。
このあとは「勘定」から「試算表」を作成し、それに基づいて「貸借対照表」「損益計算書」を作成する流れになります。
貸借対照表とは
「貸借対照表(B/S)」とは、ある時点での会社の財政状態を示す計算書。
財政状態は『資産』『負債』『純資産(資本)』の3つのグループで表されます。
その際、『資産』のグループは表の左側(借方)に、『負債』『純資産(資本)』のグループは表の右側(貸方)に置かれます。
資産
主に「お金」「お金に変えられるもの」「お金を生み出すもの」で、「流動資産」と「固定資産」に分かれます。
【例】現金、預金、売掛金、商品、有価証券など
土地・建物・備品などの「有形固定資産」、著作権・特許権などの「無形固定資産」がある
負債
主に「借金」「将来、会社の負担となるモノ」で、「流動負債」と「固定負債」に分かれます。
【例】買掛金、支払手形、短期借入金、未払金など
【例】社債、長期借入金など
純資産(資本)
「会社にある純粋な資産で、他人に返済する必要のないもの」です。
「自己資本」や「株主資本」とも呼ばれます。
【求める式】資産 - 負債 = 純資産
図の借方(左側)に『資産』の勘定科目、貸方(右側)に『負債』『純資産(資本)』の勘定科目を記入します。
左右ともに縦に金額を足していき、合計を一番下に記入しますが、このとき借方(左側)の合計と貸方(右側)の合計は必ず一致します。
損益計算書とは
損益計算書は、一定期間における会社の経営成績をあらわす計算書。
経営成績は、『収益』『費用』『利益(損失)』の3つのグループで表されます。
その際、『費用』『利益』のグループは左側(借方)、『収益』『損失』のグループは貸方(右側)に置かれます。
収益
「会社が事業活動などによって得たお金」で、その大半は「売上」が占めています。
「営業収益」「営業外収益」「特別利益」の3つがあります。
【例】売上高など
【営業外収益:例】受取利息、受取配当金、雑収入など
【特別利益 :例】固定資産売却益、有価証券売却益など
費用
「収益を得るために支払ったお金」です。
利益(損失)
「収益から費用を差し引いたもの」です。
差し引いた結果がマイナスの場合は「損失」になります。
【求める式】収益 - 費用 = 利益(損失)
図の借方(左側)に『費用』『利益』の勘定科目、貸方(右側)に『収益』『損失』の勘定科目を記入します。
貸借対照表と同じく、一番下の借方(左側)の合計と貸方(右側)の合計は必ず一致します。
ちなみに貸借対照表と損益計算書の記入形式には「勘定式」と「報告式」があり、今回ご紹介したのは「勘定式」です。
「報告式」とは上から下に書く形式です。
一般的に、貸借対照表は勘定式、損益計算書は報告式で作成されます。
報告式の作成手順は簿記2級で学習できます。
日商簿記3級の学習にオススメの本・サイト
スッキリわかる 日商簿記3級 第11版 [テキスト&問題集]
イラストを多用して分かりやすさを重視した、初学者向けの講義系テキスト&問題集
テキストと問題集が一緒になっているため、これ一冊で簿記3級の基礎知識が習得できます。
合格テキスト 日商簿記3級 Ver.11.0 (よくわかる簿記シリーズ)
解説が詳しく、簿記3級を体系的に学べる講義系テキスト。
イラストが少なく情報量も多いので、初学者には少しハードルが高いかもしれません。
簿記3級の受験を考えているなら、この本プラス問題集・過去問をやるのがオススメです。
パブロフ簿記
【公式サイト】パブロフ簿記
簿記3級・2級の学習内容や試験対策の情報を配信しているサイト。
個別の論点や問題の解き方について、文章だけでなく動画でも解説されています。
一応オススメの本・サイトを紹介しましたが、簿記3級を学ぶだけなら他の本やサイトを使っても全く問題ありません。
社会に出れば、否が応でもお金に係ることになります。
お金の動きや財政状況が分かる簿記の知識は、社会人の教養といえます。
社会人として何か知識を身につけたいと考えているなら、ぜひ簿記を学んでみてください。
簿記以外で、社会人におすすめの資格を知りたい方は、こちらの記事をどうぞ。
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